「三行と四文字」が何か、わかったような気がする話 ~鷺沢文香「銀河図書館」の考察~
こんばんは、ながさわです。
「With Love」に収録されていた鷺沢文香の2つめのソロ曲「銀河図書館」。掛け値なしに泣ける曲で反響も大きく、また絵師さんたちにもインスピレーションを与えた名曲でした。
まだ「銀河図書館」を聞いていない方は、ぜひ「With Love」を買って聴いてください。別に私がきらりPで「With Love」を売りたいからってわけではなく、本当にネタバレ無しで聴いてもらいたい曲だからです。
鷺沢文香の銀河図書館、「聞く前に絶対に歌詞カードを見てはいけない曲」という謎の触れ込みでバズってほしい。たくさんの人にこの出会いを体験してほしい
— ながさわ (@nagasawa_p) July 19, 2018
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前回、この曲の歌詞に対する既存の考察で、なんとなく腑に落ちないところがあったので、反証のみを書きました。
銀河図書館の考察 〜三行と四文字問題の一つの反証〜 - 焼き鳥のかもちょう
この時点では「三行と四文字がデレステのメッセージウィンドウなんじゃね?」という意見に、いやそれは違う気がする、と返しただけでした*1。
ところが、つい先日、ようやく自分の中で納得のできる対案を思いついたので、この記事を書くことにしました。
ずばり、わたしのアンサーはこれ。
Twitterでは「『三行』は原稿用紙の書き出しの位置を指しているのでは?」「四文字は作者名、つまり『鷺沢文香』だ」とする説がちらちらとありましたが、ここで話を止めると、名前を書く2行目と、書き出しの3行目しか存在しことになります。
1行目はどこに行ったのか。
ここがずっと引っ掛かっていました。
いや、それで正解だったんです。
1行目は言及されていないんじゃなくて、空欄だったとすれば。
読書感想文を書く時に、なかなか書き出せずに原稿用紙とにらめっこした経験のある方も多いかと思いますが、そのときの原稿用紙の状態を思い浮かべてください。
そう、きっと名前だけ書いて、タイトルも埋まっていなければ書き出すことも出来ていない。ちょうど最初に示した画像のようになっているはずです。「三行と四文字」は「文字で満たされた三行」に「プラス四文字」ではなく、「枠として存在している三行」に「四文字だけが書かれている」状況だ、という解釈です。
では、なぜこの状態になっているのか。曲全体から考えてみようと思います。
この「銀河図書館」という曲のテーマは端的に言えば「立ち位置」です。図書館で書を読んでいた少女にある変化が起きて、人々の前で書を読むようになった…というもので、もちろん鷺沢文香というアイドルの生い立ちを表しているわけです。
ここで1点気をつけておきたいのは、前半の「本を読む」と後半の「本を読む」では意味が違うという点です。前半は「少女はひとり静かに読書をする」という意味ですが、後半は「たくさんの人の前で本を読み聞かせる」、つまり前半の「本を読む」は「物語を受け取る」動作ですが、後半は「物語を伝える」動作となっており、インプットとアウトプットの関係にあるといえます。
ところで後半で読み聞かせていたのは「君の物語」でしたよね。だって「君の物語を聞かせて!」って言われているわけですから。ただ、思い出してください。この人、「本を手渡して」いますよね?ここが面白いところだと思います。
普通、「君の話を聞かせてよ」という時に、モノを渡す人いませんよね。モノボケでもして欲しいのか、と思いますよね。普通は自分の頭の中で話を考えて、それを話すはずです。でも、そうじゃない。本を手渡している。実はこれ、「君の物語を聞かせて」と言ったのは「君の生い立ちや思い出話、もしくは君が考えたを聞かせて」ということではなくて、「この本を君なりの味付けで朗読してみせて」という意味なんじゃないでしょうか。
よくよく考えてみると、「プロデュース」って「本を手渡す」ことなんじゃないかと思います。例えば歌を歌うにしても、アイドルは誰かに曲を作ってもらって、誰かに衣装を作ってもらって、受け取ったもののなかで自分を表現していくわけじゃないですか*2。
例えば、シンガーソングライターだったら何か伝えたいと思う衝動があって、音符と言葉を組み合わせて曲を作り、それを自らの手で歌う。でもアイドルは、もらった曲を一旦受け止めて、それを各人の方法でアウトプットしていく。そもそも「銀河図書館」だって、鷺沢文香は手渡されて歌っている曲ですよね。でも鷺沢文香がどのような人であって、今までアイドルとしてどのように歩んで来たかを知っていて、この歌い方で歌った曲を聞くからこそ受け取ることができる物語があるわけです。アイドルが曲をもらって歌う行為は、本を手渡されて読み聞かせることと同義なんじゃないかと思います。
では、後半で自らの物語を紡げるようになった少女は、前半ではどうだったのか。
歌詞にもありますよね「何回も書いては消えていった言葉」って。そう、うまく書けなかったんです。そんな原稿用紙はどうなっていたのか。名前だけ書いて終わっていたんだと思います。
ところで、原稿用紙の題名って、みなさんはどのタイミングで書きますか? 「とりあえず書き始めて内容が固まったらタイトルをつけよう」もしくは「テーマを考えてタイトルを入れてから書き出そう」と順序に違いはありますが、どちらか片方が埋まればもう片方を書き始めるハードルって下がりませんか?
書き出しどころかタイトルもない原稿用紙。物語をたくさん受け取って来たけれども、自分の物語を紡ごうとしても、一歩を踏み出すことも出来ず、かといってどう歩いていけばいいかという道筋も見えていなかった、そんな状態を表しているんじゃないかな、と思います。それはちょうど、初期Nの特訓コメントのように…
書の世界はどこか時が止まったような感覚で…
でも、もしアイドルという道に一歩を踏み出せば…私も前に進めるでしょうか…?
もしくはデレステのアイドルコミュ2を引くのが適切かもしれません*3
……私の物語は、まだ序章も終わらぬ序盤の1行目です。
これから、地道に一文字ずつ綴り、積み重ねていくのですね……。
(デレステ アイドルコミュ2)
ところで。
鷺沢文香って図書館じゃなくって本屋の子(正確には叔父が本屋)ですよね*4
ざっと調べてみたのですが、iM@S-CG Words Search (β)で「図書館」と検索しても鷺沢文香は出てこず、また、鷺沢文香 -アイマス デレステ攻略まとめwiki【アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ】 - Gamerch でページ内検索をしても、「図書館」でヒットする箇所はありません。じゃあ、どこから「図書館」が出てきたのか? 一箇所見つけました。「ぷちエピソード」の「ステップアップエピソード1」です。
古い図書館の片隅で、忘れ去られたまま……誰から開かれることもなく、ただひっそりと佇む書のような生き方である、と。
(ぷちエピソード ステップアップエピソード1)
書店には本を買いに来る人がいて、本も売れていっては新しい本が補充されて、もしくは売れないからと返本されて…と。書店って、人も本も動きがあるんですよね。そんな本屋で手伝いをしていた経験もあるから、だから文香は馴染みのある「書店」ではなく「図書館」を引き合いに出したんじゃないかと思います。
「表現者としての鷺沢文香の生い立ち」として「銀河図書館」の解釈を書いてみました。書いてみたものの、じゃあこれで全部うまく整合したのか?と言われるとイマイチ自身はありません。なにせ私は文香Pでもなければ、彼女の発言を全て追ったわけでもなく、鷺沢文香を理解しているとは到底言えないからです。彼女の過去の発言を拾って説得力のある体裁は整えましたが、もしかすると最も大切な要素と矛盾したことを書いてしまっているかもしれません。
なので。
この曲について、文香Pさんの手で語ってもらいたいと思うのです。だって、今度は鷺沢文香から「銀河図書館」という物語を手渡されているわけですから。ぜひ、文香から手渡された本を読んでみて欲しいと思います。